京急電鉄といえば「飛ばし屋」としてマニアの間では名が知れている。
短い駅間をストップアンドゴーですり抜ける普通車、そしてそれを猛然と追いかける快特の組み合わせはほかでは味わえないエキサイティングな快感であり、ファンが多いのも頷ける。そんな京急の電車の中で「これは乗っておきなさい」というクルマをひとつあげるなら、2000形を推したい。
2100形が登場した今、2000形は3ドア・ロングシートに改造されてエアポート急行や普通車で使われているが、足回りの高級さで言えば2000形は今でも京急随一。逸品だ。
走り装置は普通車用の800形をベースにしているものの、その特性はまったく似て非なるもの。ギア比は4.21、そのしなやかな足回りを支えるTDK-8575、MB-3281ACの定格回転数は1,270rpm。端子電圧が低いので定格回転数もそれに合わせて低めになってはいるが、その分電流は540アンペアと大盤振る舞い。800形の450アンペアより90アンペアも余計にぶち込んでいるので低速トルクはばっちり。起動の際、いかにも高速向けギアリングでございとばかりに低音で唸って加速する。ちなみに東洋車と三菱車で唸りのトーンが若干違うのもご愛嬌だ。
しかし定格1,270rpmというのは韋駄天の足回りとしてはずいぶん「農耕馬」なモータじゃないかと思うのだが、実際乗ってみると印象はがらりと変わる。確かに回転数は低いのだ。時速120キロで3,270rpm(φ=820ミリ)だから、昨今のVVVF車なんかとくらべたら本当に低回転で時速120キロを実現している。これがたとえばギア比5.6なら4,350rpm。1,000rpmも上乗せされれば当然音はでかくなるし、優雅さは消え失せる。
では低速はどうかといえば、ここで定格1270rpmが効いてくる。低速で大事なのはなんだ? トルクだ。トルクはどうやって出すかといえば、ギアを噛ませて回転数を下げる。しかし2000形のギアリングは4.21。トルクを稼ぐにはあまりにも小さい。
ならばどうする。電流増加だ。それが、800形の90アンペア増しの540アンペアというセッティングなのだ。だから低速は唸る。おそらく熱も相当なもんだ。
あ、だから2000形は250ボルトモータなのか。よく考えられている。
このように京急2000形は、走りのセッティングがとてもクールでエレガントなのだ。この考え抜かれたセッティングが1982年に造られたことに感動を覚える。
低速も高速も、そのインテリジェントな走りに感動するが、特にゼロアンペア領域にはいってから、すなわち45〜120キロの領域ははっきり言って2100形を凌駕する走りになる。ちなみに2100形のギアリングは5.93。時速120キロにおいておよそ4,600rpm。インダクションモータならこのくらいの回転で悲鳴を上げることはないが、モータの回転は物理だ。ぶん回す速度が速くなればそれだけ音はでかくなる。起動時の磁歪音、高速域のモータ音。どれをとっても2000形よりも「普通の電車」に成り下がっているのが2100形だ。
さらに2000形は、GTO-VVVF制御のクルマよりははるかに応答性のよい界磁チョッパのゼロアンペア制御が使える。したがって快特運用のクルージングなら2100形よりもはるかに「人車一体」となって運転ができる。また、ブレーキの突っ込みも端子電圧250ボルト12直列が効いてくる。回生失効しづらくしかも8連なら2コント。運転士は2000形のブレーキは800形と並んで「安心して突っ込める」と定評がある。もちろん界磁チョッパの特性上25キロくらいで回生が落ちるが、安定して落ちる分には問題はない。
考慮すべきはむしろ、離線や転流失敗による断流器作動でゼロアンペア制御が切れることだが、だからこそ2000形は2パンタ装備で離線確率を下げているのだ。どこまでもインテリジェンスでクールなクルマだろう?
座席に関してはあのかけ心地のよいクロスシートはあらかた撤去されてしまったが、ロングシートの着座も悪くない。そしてどてっぱらにドアを開けられてかつての静粛性は失われてしまったが、それでも時速100キロのエアポート急行なら十分エレガントな静粛性を楽しめる。
かつては2100形や新1000形と連結し、協調がうまくとれずに評判を落とした2000形。しかしそういった使い方は本来間違っているのであり、現在のような2000形単独のエアポート急行こそ、2000形の正しい使い方であり、関東私鉄でもっとも美しい時速100キロと言っても過言ではないのだ。
京急電鉄に乗るからには2100形のクロスシートに熱を入れるのもいいだろう。新1000形ステンレス車のハイパワートルクに酔いしれるのも楽しいものだ。それらはたしかに京急の魅力だからだ。
しかし2000形のエレガントな走りもまた、京急が到達したひとつの頂なのだ。