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サマンサのおもちゃ箱

趣味の話ばかりになってきたので改題。模型やおもちゃや実車など、鉄道にかかわるそんな話をつらつらと。好きなジャンルは民鉄と新幹線ですが、最近は新幹線成分が多めですね

さようなら711系

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さようなら711系



 2015年3月のダイヤ改正で、いよいよ711系が全車両引退する。現在の札幌近郊の通勤輸送にははなはだ向かないデザインのクルマなので全廃は歓迎といったところなんだが、それはそれとして、711系の走りは他では味わえないまさに「上品な郷土料理」のようなすばらしいものだったことは記録しておきたいところだ。
 モータはMT54。ギア比は4.82だからいうなれば117系のような走りを想像してしまうが、あにはからんやその予想はよい意味で裏切られる。
 このMT54は自己冷却ファンがない。つまりあの国鉄電車のイメージにもなっている「ブーン…」という音がしない。さらに定格電圧を375ボルトから500ボルトにあげてはいるものの、1M2T編成ゆえに加速はとてもまったり。クハに乗っているとまるで客車に乗ってるような錯覚を覚えるほどだ。
 さらにサイリスタ位相制御のおかげで抵抗制御車のようなショックがない。本当にゆるゆるゆるっとフラットに加速していく。2分近くかけてようやく100キロに乗せるその走りは、駅間距離が長く、比較的よく保線されている北海道の電化路線であれば実に滋味あふれる乗り味といえよう。ちなみに高速の走りはまったく無理のない、安定した走りでこれもまた高級感を演出している。交流電化の強みで端子電圧を375ボルト以上に引っ張ることができるので、弱め界磁で高回転を与えずとも、定格電圧を500ボルトに引き上げることでトルクを保ったまま回転数を向上することができる。なんとなれば定格速度は485系と同等の73キロ。同じMT54/ギア比4.82でも117系などでは定格52.5キロ。約20キロの差が100キロ運転では大きく聴いてくるのだ。これだけ定格速度が違えば走りも当然変わる。711系は交流電車に最適化したデザインが可能だからこそ、そのメリットを最大限に活かしたデザインができたのだ。これが交直流車の415系では、たとえ交流区間を走ろうがつまるところ直流電車なのでモータを直列につながざるを得ず、並列接続の交流専用電車に走りはどうしたってかなわない。
 走りも実に優雅。枕ばねはエアサスで軸ばね支持構造は円筒案内式をおごっているので、国鉄近郊型電車にありがちなDT21やDT33のようながさつさは微塵もない。これは何も贅沢をしたわけではなく、ペデスタル式では摺動部やばねの間に雪を噛んで冬季のサスペンション効果が死んでしまうのを防ぐため、軸ばねはエリゴばねとして雪の侵入を防ぎ、摺動部は雪から完全に保護されるエリゴばねの中に置くのが合理的、ということで円筒案内台車を採用したわけだ。北海道の車両はキハ40にしてもキハ183にしても、円筒案内台車が御用達だ。そのしなやかな乗り心地は北海道という厳しい環境ゆえにやむを得ず選択されたものだが、この極上の乗り心地を昭和40年代に味わえたという意味では、北海道の気候に感謝してもいいのではないだろうか。
 最後に座席。平凡なボックスシートが並ぶが、座席の質は急行用のそれをおごっており特に腰部のクッションは近郊型のそれよりも高級なもの、というよりも窓側の肘掛がない以外は急行型の座席をおごっており、札幌~旭川くらいの乗車距離ならさほどつかれず旅ができる。シートピッチは1,470ミリと多少窮屈なのは否めない(それでも急行型の標準より10ミリ広い)が、座席幅が急行型のそれなので近郊型とは比べ物にならないゆとりを感じる。
 座席幅は30ミリ違えばまったく別物。通路幅を確保するために座席を近郊型のそれにするのを良しとせず、窓際の肘掛を省略した見識はいまここで称えておきたい。
 711系がデビューしたのは1967年。その当時持てる技術と高い見識を持って作られた電車は、50年弱も近郊型の第一線として活躍してきた。晩年はさすがに都市型電車のスタイルとなった北海道近郊輸送には不向きであったが、そのしなやかな乗り心地は現在でも通用するすばらしいものだ。
 おつかれさま、711系。
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