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サマンサのおもちゃ箱

趣味の話ばかりになってきたので改題。模型やおもちゃや実車など、鉄道にかかわるそんな話をつらつらと。好きなジャンルは民鉄と新幹線ですが、最近は新幹線成分が多めですね

理想主義者



 東武の電車を一言でいいあらわすなら「理想主義」という言葉がふさわしい。
 儲けに直結する車両のデザインは各社知恵をひねっているとは思うが、その中でも東武鉄道の開発陣には高い見識を持つ人がいるとしか思えない。とにかく理想に向かって一直線の、エッジが凄まじく効いたクルマを世に出す傾向がある。東武の電車ほど知性を感じる車両はそうそうないと断言してもいいくらいだ。
 1986年に将来の地下鉄直通用として登場した9000型電車。この電車のテーマは「シンプル」というキーワードでくくれる。シンプルはメインテナンス性の向上、時代の変化への対応の高さ、そして派生形式への応用力の高さなど素晴らしい効用をもたらす。つまり、イニシャルコストが多少かかっても、トータルではコストを取り返すことができるというわけ。
 で、9000型は東武鉄道では初めてのステンレスカーとして登場した。当時ステンレスカーは東急車輌(現総合車輌製作所)のみが積極的に販売していたが、東武としては富士重工やアルナ工機(現アルナ車両)とも取引しており、各社の顔を立てるのであればステンレスカーの導入はむずかしいといわざるを得なかった。
 しかし、東武鉄道はステンレスカーの将来性を買った。そしてその見識は正しかったことは後世の歴史を見れば明らかだったが、当時としては英断だった。もちろん東急車輌以外にも発注する関係上、最新の軽量ステンレスカーとはならず従来のコルゲートがついたステンレスカーとなってしまったが、とにもかくにもステンレスカーを東武鉄道が導入したという事実は、業界で大きな話題となった。
 東武鉄道は新技術の導入にはたいへん意欲的な会社だ。一方でその路線規模ゆえにたくさんの車両を抱えるため、標準化に対しても高い見識を持って検討している。9000型のステンレスボディ採用も「今後の新型電車はすべてステンレスでいく」という判断がはたらいたのだろう。以降10000型・20000型・30000系にいたるまで徹底してステンレスカーを製造していく。
 ステンレスカー採用のコンセプトも「シンプル」だ。ステンレスの利点は腐食しないことだ。つまり、イニシャルがかかろうがライフサイクルで取り戻せるならば多少高くても価値あり、特に今後数百両必要になるであろう5000系列、3000系列の置き換えには、メインテナンスフリーはなによりも優先されるべき課題。であればシンプルにステンレスカーを導入すべきでと考えた。
 ところで、9000型は地下鉄直通用のクルマだ。つまり高加速や登坂性能が重視される。一方で東上線は郊外路線。駅間距離が短いのは中板橋〜ときわ台、玉淀〜寄居くらいなもので、ふじみ野駅も柳瀬川駅もなかった当時は普通列車でも80キロ以上の高速性能が要求されていた。それに9000型は地下鉄直通だけでなく汎用車として急行にも使われることが前提となっていたので、100キロ(当時の最高速度は95キロ)で安定して走る性能を選定しなくてはならない。
 VVVFインバータ制御が実用化されていない当時、どんなセッティングが理想だったのだろうか。
 起動を滑らかにするなら8000系のようにバーニアを噛ませて超多段化するのも手だが、これはメインテナンス面で不利。それではということで無段階変速が可能な電機子チョッパ制御が候補に挙がるが、電機子チョッパとするなら高速域はどうする? ならばモータを複巻にして高速域もリニアに電流制御ができるようにできればよいんじゃないかな? ということで、AFEチョッパ制御を採用。起動から高速域まで半導体で制御するため価格はかなりのものとなるがそこは東武の理想主義。イニシャルが高くともランニングで取り返せるなら「あり」とシンプルに考える。
 しかもAFEチョッパってのは起動から高速まで半導体で制御するもんだから回路はシンプルそのもの。シンプルであるということは故障に強くメインテナンスも良好だ。この辺の目配せは東武鉄道の「切れ味のするどさ」だと思う。
 ただこの切れ味の鋭さは「9000型はたくさん作らない」という割り切りがあってのことだと思う。さしもの東武鉄道もこの高級車両を8000系の後継に、とは考えていなかっただろう。その役目は9000型と共通化できるパーツはとことん共通化し、価格を下げた経済車10000型をのちに作ることでまかなった。10000型は10000型で、MGで界磁電流を作ったりバーニアで起動する界磁チョッパというなかなかにおもしろいクルマではあるがここでは割愛。
 閑話休題。9000型のギアリングは5.44。8000系よりもやや加速寄りに振っているが、これで3.3キロ/秒をたたき出す。こと低速においては無段階変速ゆえの粘着性能と、150キロワットを発揮するTM-83形モータのたまものだ。このモータの特性は特に公開されていないが、乗ってみるとリニアに低回転から高回転まで回るモータと推測できる(ちなみに9050型のTM-92モータは、45キロから上でギューンと加速する)。実際ギアリング5.44ならば時速110キロ運転も4,600rpmで行けるわけで、直流モータでも(余裕綽々とは言わないが)なんとか引っぱれるし、加速余力も残している。現在東横線でVVVF車に伍して9000型が活躍できるのも、デザインにおける見識の高さがあったからこそだ。
 東武鉄道は保守的といわれる。俺に言わせりゃなにを言ってるんだこのボンクラがと思うのだが、そういった印象を持たれるのは、見てくれが似たような、同じようなクルマを長い期間大量に作るからだろう。「ミニ国鉄」といった表現も然りだ。
 こういうことをきやすく言う人間は、「同じものを作り続けられることのすごさ」をわかっていない。なぜそれができるのか。
 企画の段階で先を見越した先進的なデザインでまとめるからじゃないか。すなわちそれは高い見識で基本設計を構築しているからではないか。俺はそれを持って保守的だとは思わない。
 過去やしがらみに囚われず、未来に対してシンプルに、理想を追求する。これが東武鉄道の電車における醍醐味だと思っている。
 この理想主義者が繰り出す新型車両は、いつだってエキサイティングだ。
 東横線の特急で9000型の先進性を、ぜひ体感してほしい。
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