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サマンサのおもちゃ箱

趣味の話ばかりになってきたので改題。模型やおもちゃや実車など、鉄道にかかわるそんな話をつらつらと。好きなジャンルは民鉄と新幹線ですが、最近は新幹線成分が多めですね

そのクルマ、凶暴につき

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そのクルマ、凶暴につき

 突然だが、鉄道の素性はインフラが7で車両が3だ。つまりインフラがある程度しっかりしていれば車両はそこそこのもので十分対抗できるし、逆に車両がいくらすばらしくてもインフラがタコスケならその能力は十分に発揮できない。たとえば多度津から高知で高規格の線路をトンネルぶち抜いて一直線に敷き直せば、キハ181系でも高速道路といい勝負ができるだろうが、そんなことは現実には不可能。国鉄時代なら内子線のようなことを採算度外視でできたかもしれないが、民間企業となったJRではそれは許されない。
 そう、高速道路ができたからといって、JR四国が高速運転可能な新線を作ります、というわけにはいかないわけだ。せいぜい今の路線を高規格化するのが精一杯だ。いや、それでも莫大なお金がかかる。
 ならばあとは、3のほう、車両の高性能化しかない。しかし、線形が最悪と言っても過言ではない土讃線ではパフォーマンスを出すのは生半可なことではない。
 これが電車なら振子化してしまえば曲線を乗り心地を損ねることなくスムースに走る技術が使える。ギアリングを中速、4.82~5.6程度に取って中間加速を向上、トップスピードが頭打ちになる分は当時はやりのVVVFインバータ+インダクションモータでカバーする。そんなことも可能だった。実際予讃線特急用の8000系電車はそんな感じのセッティング(150キロワットモータ/ギアリング5.18)を取っている。
 しかし、土讃線は非電化だ。しかもカーブだらけだ。
 そうなると気動車で振子&高速運転を行わなくてはならない。
 電車であればトルクがリニアに出るのであまり気にすることはないが、液圧式の気動車はきっちりパワーをどの速度域で使うかを選定しないと、額面通りの性能を使うことはできない。せっかく高速性能を持っていても、路線の速度制限が低いと延々と変速段で走る結果となったり、直結段に入ってもエンジンの回転数を絞らざるを得なかったりで、なかなかうまく行かない場合がある。特に国鉄のように全国規模で車両を配置するとなると、最終減速比、すなわちファイナルの選定はかなり頭の痛い問題だった。
 しかし、JRならある路線にターゲットを絞った減速比の選定が可能だ。ゆえに2000系は土讃線のことだけを考えればいい。それならば90キロと120キロに最適な減速比をあわせるのが望ましい。おりしもキハ85で多段クラッチが実用化していたので2000系は変速1段・直結2段のセッティングが組めるようになった。直結2は2.353(N2000はもうちょっと低いはず)、直結1は手元に資料がないがおそらく3.15程度だろうと思われる。これならφ760条件でそれぞれ120キロ・90キロが可能だ。このような「土讃線スペシャル」が出来たのも民営化のおかげだ。
 ところで高速運転に必要な要素は大馬力のエンジンと適正なファイナルのほかにもうひとつある。
 軽量化だ。
 エンジンのパワーを高速運転に注ぎ込むなら、軽量化はなにを置いても優先されるべき要素。あわせて振子車両なら低重心化を計らなくてはならないだろう。
 だからとにかく2000系は軽い。2エンジンでいろいろ装備がかさむ振子式特急形気動車にもかかわらず全形式が重量40トンを切っている。キハ181系からくらべたら5トン近いダイエットだ。その後に出た気動車でもこれほどまでに軽量化を極めた車両はいない。1両当たり900馬力が「常識」となった特急気動車の中で、660馬力の2000系がいまだ第一線でいられるのは、このきわまった軽量化の賜物だ。
 もちろん、軽量化において捨てたものもある。静粛性と室内空間だ。
 手っ取り早く軽量化するなら、鋼板を薄くすればいいとばかりに、2000系ではt1.2というペラペラの板を採用した。まあこれでも固定窓なら強度は稼げるとはいえ剛性ギリギリのところを攻めているため、ただでさえ固有振動数の高いステンレス板が振動をもろに拾って静粛性は褒められたものではなくなってしまった。テーブルに置いたペットボトルがくるくる回る動画がネットで見られるが、まあそのくらい揺れる。しかしこれをもって2000系の失点としたくはない。むしろ2000系のデザインはそれだけ「なりふり構わない」ところまで攻めているとポジティブに評価したいところだ。
 車高も軽量化と低重心化を極めた結果、3,380ミリというとてつもなく低い車高となった。高松駅で6000系などと並ぶとその低さはいっそう際立つ。車高が低いということはそれだけ車内空間が圧迫されるわけで居住性はマイナスだ。特急列車において静粛性と居住性という大事な要素を犠牲にしてでもスピードに賭けたのが2000系なのだ。
 車輪径も810ミリと50ミリも通常より小さくなっている。これも低重心・軽量化に貢献するがその分高速で回転しないと120キロ運転ができない。電車と違ってエンジンは回転数の上限が2,000rpm程度だ。勢いファイナルの数字にも制約が出てくる。ディーゼルエンジンは電車のモータのような高回転はできない。2000系のSA6D125Hエンジンは2,000rpm。この回転数をパワーとスピードで適切に割り振らなくてはならないが、車輪径が小さくなるとそれだけ高速運転に無理が出る。それを取り返すにはやはり軽量化が必要だし、5センチ床が低い分、艤装も余裕がなくなる。
 一方で小径車輪は加速性能と勾配区間に有利だ。25パーミル程度の勾配なら90キロで軽快に駆け上がる。起動時の暴力的な加速、まるでラリーカーのように小気味よく曲がる踏破性能。これらは2000系以前とそれ以後といってもいいくらいに次元が違う。連続勾配をものともせず、路線に最適化されたセッティングで軽快に走る「南風」は、誠実に軽量化とパワーアップを両立させ、2000系という車両の素性のよさを存分に楽しめる。
 しかしこれだけでは2000系のすべてを楽しんだとはいえない。もうひとつの顔を見るため予讃線の「宇和海」に乗るべきだ。特に伊予市〜伊予大洲間。
 「宇和海」で内子線のトンネルに時速120キロで突入したとき、2000系のもうひとつの顔が見える。
 極限の軽量化がもたらした騒音、きしみ。パワーアップだけでなく、限界まで軽量化を施した2000系の「裏の顔」がここにあらわれる。JR四国の高速化は特急車両としての居住性を損ねるギリギリのレベルまでチューンされた、精悍極まりない車両。それが2000系だ。
 そのクルマ、凶暴につき。
2000系TSE。気動車の歴史はここから変わった。
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