趣味の話ばかりになってきたので改題。模型やおもちゃや実車など、鉄道にかかわるそんな話をつらつらと。好きなジャンルは民鉄と新幹線ですが、最近は新幹線成分が多めですね
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川崎重工業は19日、20日公開のアニメ映画「未来のミライ」に登場する鉄道車両のデザインに協力したと発表した。細田守監督の依頼を受け、実際の車両を手掛ける部署が劇中に出てくる未来の新幹線をデザインした。 登場するのは生き物をモチーフにした「黒い新幹線」や、かっこよさやスピード感を表現した「未来の新幹線」。黒い新幹線は複数のデザインを提案し、細田監督が選んだという。
川崎重工の担当者は「作品に参加できるのは光栄。映画では是非、車両にも注目していただきたい」と話している。
「スタイル」ではなく本当に「デザイン」をしてくれたらうれしいけど、映画の趣旨的にそれはないんだろうな…
新幹線のデザインはその時代の人間が持つ見識を表すくらい主張の激しいもので、ただとがらせたり「ぼくのかんがえたさいきょうのしんかんせん」を描いても全然そこに迫力は出ないんですよ
川重は実際に新幹線をデザインしている会社だし、efsetなんかも川重が新幹線に何を期待しているのかがはっきりとわかるデザインなんですよ。国内向けじゃないからノーズのスタイルがシンプルになってるでしょ?
運転台のでっぱり分だけ側面をへこませて、あとはワンモーションでまとめてる。トンネル断面に余裕があればこれで350㎞/hいけるんです。最後尾の整流も力任せに空気を引っ剥がせばいい
日本向けであればもう少し側面のエッジを削って、ノーズを下げないといけないと思うけど。そこをいじりだすとぐっちゃぐちゃになっていくわけで、そのぐっちゃぐちゃに説得力を持たせたのがE5系やN700Sなんですよ
上にN700Sのノーズ付近の画像を挙げてみましたが、立ち上がりのところで面積稼がなきゃいけないから先端が幅広になって、そこから高さをできるだけ上げずに、運転台部分だけで面積を稼ぐ。そのつじつまを後方整流のためのディフューザとして溝に使って運転台下でもう一段えぐる。これをAIをつかって「それらしく」まとめたのがN700Sなんです
ね、同じ速度を目標にしても、線路条件でこれだけ姿が変わるんですよ。これが新幹線の面白さ、醍醐味なんです。どっちがいい悪いじゃない。環境に応じて「進化」する生き物なんですよ新幹線は
だから、N700系の遺伝的アルゴリズムがとても有効なんです
モチーフにするまでもなく新幹線は「生き物」の理論を取り入れています。そんな必然がデザインに反映されていたら、とてもすてきだと思うんですが
「スピード感」の表現というけど、新幹線のスピード感というのは時代によって変わっていくものなんですよ。空力理論の進化は新幹線の姿を変えてきているわけですから。古代人と現代人は顔つきが違いますよね。それは環境で進化を獲得した結果なんですよ。けっして「古代人が考えた未来人」ではないんです。空想世界の新幹線を描くとき「どの時代の人間が考えた新幹線か」を念頭に置かないと、ちぐはぐな姿にしかならないと思うんですよね
そういった視点で、デザインされた車両を見てみると…
…え? 下の車両はともかく上の車両はなかなかいいじゃない!? これはいい意味で裏切られたかもしれない
正直、上の車両でスタイリングそのものに特に感銘を受けるものはありませんが、上の黒い新幹線は一応エリアルールに沿ったデザインをぎりぎりまで頑張ってるのは好感が持てます。コクピットの後ろをくぼませなければ「やるじゃん川重」と思ったかもしれないレベルでいいと思います。コスメティックは興味の外だけどこのデザインはいい。「ぼくのかんがえたさいきょうのしんかんせん」ではなく「新幹線電車をデザイン」しています
運転台前の謎の牙に関してはまったく余計なものなんだけど、その直下を極端にくぼませてるでしょ? ここに俺は「川重の意地」を見ました。これはちゃんとまじめにデザインしてるよ。確かにスタイルはメチャクチャです。ですが、そのメチャクチャにちゃんと空力理論で筋を通してます。うん、すごい。物理とフィクションのバランスが絶妙だわ
運転台後部のくぼみは個人的にどうなのと思うんだけど、最後部に来た時のフィンと考えれば納得できないこともない。カルマン渦の剥離をここでやるのだ、といえばなるほどと納得できますよ
で、「速さをイメージしたほう」は二階建てですね。なんでまた……
日本の新幹線で二階建てというのは、デザインがまず破綻します。川崎重工もこりゃあすげー迷いを感じますし、もしかしたらこれは日本むけではないかもしれません
二階建てだと車高が4,400㎜くらいになるので、ノーズをワンモーションで造れば18m近い長さになります。そして断面積変化を一定に保つ以上相当左右をえぐらないといけません。その「苦しさ」がイメージパースにもはっきり表れています。それでも足りなかったと見えて、運転台もヘッドライトも出っ張った部分は全部フラットにしています。すごい、ちゃんと筋を通してる
しかしこの「フラットな運転台」は300系J0編成で否定されたんじゃなかったかな。でも、二階建てで高速運転をするならこれしかないし、E4系みたいに運転台を出っ張らせるなら高速運転はあきらめるしかないです
ただ、それ以上にこの新幹線がデザインとして破綻してしまっているのは、「お前は輸送力を取りたいのか速度を取りたいのか」どっちつかずのデザインになってる点です。輸送力を取るならこんなバカげたノーズはいりません。ノーズを伸ばして先頭車をダブルデッカーにできませんでした、なんてのはデザインが破綻しています
じゃあスピードか、というと、2階建てはコンタがでかい。つまり軽量化には絶望的に向いていません。E4系新幹線は静粛性に優れたダブルスキン構造を放棄し、シングルスキン構造にしてまで軽量化を施しています。それでも軸重16t
果たしてこの新幹線がどのくらいの速度を想定しているのかはわかりませんが、240㎞/h程度ならこのノーズは意味のない長さ、300㎞/h程度なら物理的に軽量化が不可能という結論になってしまい、デザインとしては破綻しているといわざるを得ないのです
かように新幹線電車のデザインというのは難しく、奥が深いものなんです
もしかしたらefsetのように海外に売り込む車両がベースなのかもしれません。大陸のがっちりした軌道を300㎞/hで走る、という想定ならこのデザインはありです。それがどこになるかはわかりませんが…ちなみに軸重で言えばフランスは17t、ドイツが20tです。高速列車の軸重はたいへんシビアです
とはいえ、両車とも新幹線電車としてのデザインは誠実に行われています。細田監督もちゃんと「守るべきところは守り、遊ぶべきところで遊ぶ」というメリハリをきっちり守っている感じです。俺は少なくともデザインに対して誠実さを感じました
うん、いい意味で裏切られたよ。これは素晴らしい
たかが映画にそんなうだうだ言わなくても…まさにおっしゃる通りです。別に俺も新幹線のデザインが破綻しているからこの映画はダメだ、なんて言うつもりもないです
ただ、このイメージパースだけでも新幹線電車というのはこれだけ語れてしまう面白さがあるのです
以下追記
『未来のミライ』に登場する新幹線電車のイメージカット、もう1種類あった。これは東北大学の小濱教授が提案するデザインがもとになってるのかな? サイドにフィンを立てて最後部に来た時垂直尾翼と同じ整流効果を期待したデザイン。上の『黒い新幹線』からコスメティックを取っ払ったらこうなります
本来ならひとつ目の先端フィンの部分はノーズを もう少し絞り込みたいところだし、ノーズ先端はそんなにとがらせなくてもいい(そんな余裕があるなら客室に使おう!)んだけど、全体的な空力理論は間違ってない。コクピット横のフィンを立てた分は側面を斜めに削ってちゃんとつじつまを合わせてあるし、コクピットのでっぱりもちゃんと計算されている。サイドのフィンがコクピットのかなり手前から立ち上がって、コクピットの勾配と反比例しつつ、最後でぐっと持ち上がるところなんかとてもエロチックだ。もちろんこれも空力的に極めて正しい
N700Sの理論を極端に表現するとこうなりますよってスタイリングだよね。これはいいデザインだと思う。少なくとも2階建て新幹線よりは理屈に合ってる。これなら「さすが川崎重工」と思うし、こいつが劇中で330㎞/hくらい出しても納得できるよ
基本理論があっていれば、かっこよさのためにうそをついてもそれは失点にならない。むしろフィクションなんだからそこは盛大に嘘をつくべきなんです。この新幹線電車に限って言えば、物理と嘘のバランスが絶妙に素晴らしい。これは監督もかなりの見識を持ってデザインしてるんじゃないかな?
ああ、なんか久しぶりに「架空の新幹線電車」で素晴らしいものを見た気がする。潔く定員を捨てて「速い新幹線」のも好感が持てるよ俺は
素晴らしいですこの新幹線
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