その昔「マンガを読むと頭が悪くなる」と怒られたものだが、この『任侠沈没(山口正人/日本文芸社)』は、ページをめくるたびに頭が悪くなる。1ページでIQが1落ちるとして、全624ページだから本郷猛ですらバカになるという計算になる。
山口正人といえば、漫画ゴラク連載の『修羅がゆく』が有名。任侠の世界を書いた長編作品で、主人公がチート級の人格者である点を差し引いても本当に面白い。その山口正人が描いた任侠ものなんだから、面白さは保障されたものだ。
甘かった……。
ストーリーをかいつまんで説明するとだな……うまく説明できる自信がないが……つまり
「いざこざが元で妻と娘を組長に殺された主人公、大紋寺龍伍がかたきをとるために、組長を殺すために東京へ向かう途中、マグニチュード9.5の大地震に遭遇。乗っていたバスが火山弾を食らい大破し、主人公と仲間数人以外全滅。怒りに任せて火山弾をドスで斬りながらかたきを取るために東京を目指すが、道中でみかん狩りをしたりやくざ狩りにあって牢屋に閉じ込められたら牢屋が爆発して温泉になったり、その温泉から間欠泉で的の眼前に吹き飛ばされたり、道を間違えて下田に来たかと思ったら伊豆半島が分断されていたり。で、NHKの集金人から組長が海ほたるにいることを知り、海ほたるに向かうがそんなこんなしているうちに北朝鮮の首領様が富士山にテポドンを発射。富士山は噴火して火砕流が東京湾に流れ込む。組長は飛行船で逃げたため、主人公はアクアラインの海ほたるに隠されていた航空機で追いかけるが実はそれはスペースシャトルで宇宙に飛び出してしまう。宇宙での戦いの末、主人公は死んでしまうがすべてを察した組長は割腹自殺し、宇宙の流れ星となった主人公に介錯を願い、本懐を果たす任侠マンガ」
わかるか?
わかんねぇだろう?
これでもかなりかいつまんで書いたんだけどな。
とにかく次から次へと敵と天災が主人公に襲い掛かり、そのたびに奇想天外なことが起きてなんだかわからないけど解決してしまうくりかえしなのだ。
たとえば第15話の「血戦」。文字通り血と血がぶつかり合う壮絶な戦いでタイトルに偽りはない。しかし、話を読むと、病気で余命いくばくもない風野又三郎。主人公は彼を助けるために病院に担ぎ込むが、被災した病院には医者も薬もない。そこで主人公は自らの血を風野へ輸血することを決意。腕に針を刺し、チューブをつなぐ。
しかし、主人公はB型で風野はA型。このまま主人公の血液が風野の体内に入ると風野は死んでしまう。まさに血と血がぶつかり合う熱い戦いが始まるのだ。
ふざけんな
また、この抗争の原因ともなった母娘殺しにしたってまあひどいオチなんだよ。ふざけんな! といいたくなるくらい。それを
「それもまた任侠じゃないのか?」
の一言であっさり終わらせやがるのだ。ホントふざけんなという世界観なのだ。それでも『任侠沈没』が許せてしまうのは、作者はいたって真面目に、誠実にマンガを描いているのがわかるからだ。
624ページの間には、いくつも何の脈絡もなくとっぴな事件が発生するのだが、出した伏線は基本全部回収しているのだ。これはまさに「思いつきで書きなぐった」作品ではないことを表しているといえよう。まあ、回収すりゃあいいってもんじゃねぇよ! って叫びたくなることはしょっちゅうだけどな。
とにもかくにも読めば読むほど頭が悪くなる『任侠沈没』。これは絵の好き嫌いは無視してでも買うべきマンガだ。とりあえず読んでおけ。
読んでつまらなかったら?
「まあ、それもまた任侠」じゃないかな?