なにやらタバコのコマーシャルみたいなタイトルだが、鉄道車両というのは基本的に軽ければ軽いほどいい。もちろん電気機関車のように、牽引力を確保するためある程度重量が必要なクルマもあるが、それでも軽ければ軽いほどいい。可能な限り軽く造って、重量バランスを取りながらデッドウェイトを載せたほうが走りの素性は断然よくなるからだ。軽く作ればその分浮いた重さをいろんなことに使える。たとえばEF200形式は軽量化を極め、浮いた重量を乗務員保護に使い頑丈なボディにして所定の重量まで増した。これがデザインというものだ。
時は高度成長時代。増え続ける旅客に対して大手民鉄は輸送力増強に追われていた。高級なオールM編成を放棄し、MT編成で大馬力のモータをぶら下げるなどして1両でも多くの車両を実戦配備しなければならなかったそんな時代、横浜で砂利を運んでいた相模鉄道も輸送力増強が必要となった。
しかし、相鉄には新車をパコパコ造るお金はない。そこで17メートル級旧型車の機器をリサイクルして20メートル級の新型車を造ることにした。作ることにしたのはいいのだが車体がでかくなる分重量が増える。重量が増えるということは同じ機器では性能が落ちるということだ。もちろんモータにカツをいれ、電流をドバドバながせばある程度はカバーできるが、旧型車のモータは端子電圧750ボルト。しかも駆動方式はつりかけ式ときた。そんなシステムに大電流流したらフラッシュオーバで火だるまだ。
そこで相鉄は、限界設計とも言える軽量化に取り組んだ。車体を比重の軽いアルミで造る。さらに骨組みの上にアルミを貼るのではなく、骨組みは車体として活かした上で、骨組みのないところだけアルミ板を貼った。イメージとしては障子を貼る際に大きな1枚の障子紙を使うのではなく、障子の枠を活かして正方形の小さな障子紙を障子と障子の間に貼り付けていく。そんなイメージだ。紙と糊の障子と違い、アルミのMIG溶接なので強度は保たれたまま、本来フレームと外板が重なる部分にアルミ板を貼らなくて済む分の軽量化が可能となった。鋼体重量わずか4.1トン。初期の山陽2000系のボディが約9トン、最近のアルミボディの鋼体でも4~6トン前後あるので、相鉄2100系がいかに軽く造られたかわかろうというものだ。実際当時の旧型電車の鋼体重量は10トン近くあったので、5トン近い重量削減は車両性能の維持に大きく貢献した。
となれば、軽い車体にふさわしい性能の足回りを搭載したら、もっと素性のよい電車ができるのではないか? そのコンセプトで造られたのが相鉄7000系だ。鋼体重量は2100系よりもさらに攻めた軽量化で3.6トン。たかが500キログラムというなかれ。2100系の時点でかなりきわまった軽量化がなされた中でさらに500キロ減なのだからこれは相当なもの。総重量はM車で35トンでTはなんと24トン! 冷房がついてこの重量は1975年という製造年次を差し置いてもきわまっている。これでしっかり車体強度は確保しているのだから、まさにボクサーのような精悍なボディといえよう。
そこに組み合わさる足回りは130キロワットの直巻モータ。そう書いてしまえばなんだ東武8000系と同じかよで終わってしまうが、きいて驚け定格1,300rpm、定格電流390アンペアの、ギアリングは4.5だ。しかも相鉄のM車はφ860ではなくφ910だから、実質的には4.21くらいだと思ってもらっていい。これはどう見ても通勤電車のセッティングではない。いうなれば1.6キロ/秒くらいの加速力でじわじわと加速し、2分くらいかけて時速100キロに持っていく、言ってみれば国鉄近郊型電車のようなセッティングだ。もちろん瞬間的には500アンペアくらい電流は流すのだろうが、それにしてもおとなしすぎる。
しかし、実際に7000系に乗ってみるとわかるがけっこうキビキビ走る。抵抗制御ゆえのガツガツした前後動はあるが、2.5キロ/秒くらいで全界磁を抜けて、85キロくらいまで(相鉄で常用する速度はこんなもんだ)よどみなく加速する。電制はないのでブレーキはディスクブレーキでとてもスムース。いわゆる高速ギアリングの上品な走りを通勤電車で実現している。
そんなことができたのは運転士に「7000系は横風に煽られる」と言わしめるほどの軽量化の賜物だ。軽量化はすべていい方向に転がる。6000系よりも5トン軽くなった分、ギアリングを4.9から4.5に落とせた。これは定格回転数を下げる効果があり、結果それは低騒音化に貢献する。また、5トン軽くなった分電力消費量も当然小さくなる。輸送力増強が叫ばれた時代に、浮いた電力でもう1編成余分に走らせることは正義だ。当時相模鉄道はピークで片道毎時30本の電車を走らせていたが、7000系の軽量化技術がそれを助けた面は非常に大きい。
相鉄7000系こそが、通勤電車のあるべき姿としての「ライトスタッフ(正しい資質)」であると断言しても差し支えないだろう。
直角カルダン駆動特有の低速での唸りを聞きながら、安定した加速力で85キロへ引っ張りノッチを切ると、まるでモータが止まったように静かになる。ベベルギアにテンションがかからなくなるとこれほどまでに静かになるのかと驚く。そりゃそうだ。平行カルダンのクルマだって効率を高めるためにギアをハスバにしている。もともと45度でギアがぶつかる直角カルダン駆動にさらにスパイラルベベルギアを採用すればさらに効率がよくなる。効率がいいとは無駄が出ないということだから静かになるのは当然なのだ。この静粛性はWNはもちろん、TDドライブでも真似ができない。
そして乗り心地が実にいい。台車自体は枕ばねがダイヤフラムのエアサスとはいえスイングハンガー支持、そして軸ばねは金属ばね支持のペデスタルなのだが、なんといっても軸距2,450ミリ。直線での安定性はばっちりだ(ただしT車は2,100ミリ)。また、これは一概に好ましいことではないのだが、直角カルダン駆動ゆえにカルダン軸やスパイラルベベルギアなど重量物がばね下になるばかりでなく、1枚100キロ近くの重さになるディスクブレーキが4枚もついているのでばね下重量はかなり重くなっている。これらは軌道破壊という面では好ましくないのだが、軌道が整備されている相鉄ではその問題は顕在化せず(車両全体の重量が軽いのも救いだ)、むしろ安定した乗り心地(ただし、ズシンズシンと地響きのような低周波の振動がないわけではない)に貢献している。TR47台車と似たような特性だろうか。
直角カルダン駆動独特の起動音、惰性走行時の静粛性、そして7000系ならではのブレーキ音。これらを味わうのなら平日に運転されるいずみ野線の特急で堪能することをお勧めする。
鉄道車両においてもっとも正しいデザインは「軽く造ること」。7000系デビューから40年たってもその一級の乗り心地が何よりもそれを証明している。相鉄7000系は通勤電車の正しいデザインとして、鉄道史に残すべきクルマだと断言しよう。
鉄道史的には初期型だけど、後期型のスタイリングはこれはこれで捨てがたい魅力があるのよね……