仕事の関係でいちばん利用しているの西武新宿線。この路線を利用すると高い確率で2000系に当たる。国分寺線に至っては必ず2000系がやって来る。
この電車、性能的にはこれといって突出するものはない。130キロワットの複巻モータを1C8Mの界磁チョッパでコントロールする。MT比は4M2T、6M2T、7M3TとM車が多目だがこれといって加速性能や高速性能に優れているわけではない。必要十分な性能で、実に西武鉄道らしい電車だと思う。
しかし、いざ走り出すとこの電車の高級さに「おおっ!」となる。特に西武新宿線なら新所沢~狭山市間で2000系を堪能してほしい。
新所沢駅を発車。ゆるゆると加速していったん100キロでオフ。南入曽信号所のポイントを95キロで通過するために軽くブレーキを当て、通過後105キロまで再加速。そしてダイビングブレーキで入曽駅に停車。界磁チョッパ制御のゼロアンペア制御のお陰で一連の動作は極めて滑らかだが、見るべきところはもうひとつある。
揺れないのだ。
2000系のFS372という台車は、これといって特徴のある台車ではない。軸箱もオーソドックスなペデスタル式だ。
まて。これはペデスタル式の走りじゃないだろう。この走り心地はそう、シュリーレン台車のそれにも勝るとも劣らない。いったいどんな魔法がかけられているのか。
その前に、なぜペデスタル台車は揺れるのか。
ペデスタル台車はその名の通り、ペデスタルで軸箱を支持している。ペデスタルとはまあ、網戸のレールみたいなのを想像してほしい。そして網戸が軸箱だ。路面の振動を軸箱がペデスタルというレールを上下して吸収し、ピッチングを抑えるというのがペデスタル台車の理屈だ。
しかし、レールを滑るということは隙間が必要ということだ。5ミリの隙間に5ミリの棒では滑らない。そこで隙間を設定するのだが、隙間は当然前後方向(ノッチング)、奥行き方向(ヨーイング)への振動源となる。
これら3つの要素が加わり、ダイアゴナルな揺れとなって車体に伝わる。そういう理屈だ。
で、電車の台車はバネで振動を吸収する。バネには復元力があるので縮んだ分は伸びて、伸びた分は縮む。これが電車に乗っていてゆっさゆっさ揺れる原因だ。それを抑えるために、金属バネにはオイルダンパをつける。シュリーレン台車などは軸バネの内側にオイルダンパを入れて減衰を抑えている。
しかしFS372にはオイルダンパはないペデスタル台車だ。ではどうやってこの走りが実現できるのだろう。
その秘密は線路だ。揺れの原因はなんだ。線路のアンジュレーションや軌道狂いが軸箱をあらぬ方向へ誘導する。ならば、線路を限りなく平滑にすれば、隙間があってもペデスタルは安定するんじゃないか。
これが西武鉄道の理屈だ。魔法でもなんでもない。ただ愚直に線路を万全のコンディションに保っているのだ。
もちろんこれだけではない。ペデスタルの隙間管理も高いレベルでなし得ている。線路が7で車両が3。その両方が完璧だからこそ、ペデスタル台車でもこれだけの乗り心地を実現しているわけだ。
豪華な内装? おもてなしの心? そんな美辞麗句は2000系にはない。何せ生まれの由来にしたって「設備が貧弱な新宿線の輸送改善」なのだ。101系などの3ドアから4ドアに。戸袋窓も省略して簡素化を図ったような電車だ。そもそもペデスタル台車を採用したのだって「価格が安い」からだ。豪華の2文字はどこにもない。
しかしその実、誠実な隙間管理と間東一の保線レベルで提供する優れた乗り心地。通勤客にとっての不愉快な要素である揺れを、予算の範囲で最大限に実現しようという心意気。これをもって2000系は、いや、西武鉄道の電車「高級車」と断言するにふさわしいものとなったといっても過言ではない。
残念ながらポイント通過時のように線路条件が悪化するとペデスタル台車の弱点が露呈してしまうのだが、逆説的にそれは西武鉄道の保線レベルの高さを証明しているようなものだろう。
西武鉄道の「でかけるひとを、ほほえむひとへ」は伊達じゃない。このおもてなし精神があるから、西武鉄道の通勤電車はどれも素晴らしいのだ。
ただ、特急レッドアローだけはもう少しなんとかならなかったものか……。