AEのしなやかさを今に
抵抗制御というのは、カムなり単位スイッチを進めていく際に電気の量が階段状に増えていくため、加速の際にガツンガツンと前後動が発生する。これは性能上仕方がないことと割り切るのもひとつの見識だが、卑しくも特別料金を取る列車ならば、可能な限りシルキーな空間を提供したいと思うのも、また人情というものだ。
京成3400形は、そんな当時の意気込みを体感できるクルマとして、俺のお気に入りの一台となっている。特急やエアポート快特で3400形に当たるとちょっと気分がホッコリするのだ。
京成3400形の走り、一言で言えば「エレガント」なのだ。通勤電車にはもったいないくらいのエレガントな走りを楽しめるのは、京成3400形を置いてほかにない。個人的には3700形のマッチョな走りも捨てがたいが、やはり特急で乗るなら3400形だ。
お気に入りの座席は運転台直後の3人がけ。京成線内ならばここからアンメータが見える。
ドアが閉まって起動。微小な衝動を体に感じながらあっという間に抵抗段を抜け、弱め界磁段に入る。クーンと軽いモータ音を響かせながら、100キロくらいで走るのが3400形にはよく似合う。青砥駅を発車し下り坂をゆるゆると走り、立石のカーブを抜けたあとフルステップで加速するこの区間が俺のお気に入りだ。
とにかくこの足回り、TDK-8500Aモータの素性のよさがたまらない。弱め界磁起動でゆるい衝動、パラ12段の制御段を抜けると無段階の弱め界磁制御。ギア比が5.25と比較的高速側に振ってあるため時速100キロ程度ならモータの回転音もとても上品で静かだ。12段の進段もとても滑らか。その走りはまさに「猫足」と言っても差し支えないしなやかなものだ。
AEの意気込み
その走りの起源は京成電鉄の初代エアポートエクスプレス、AE形に求められる。京成電鉄が品格高い特急電車としてデザインしたこのクルマは、カーブの多い京成電鉄においてシルキーな走りはどうあるべきかと考え、セッティングされたものだ。
左右動は線路や台車に依存するが、前後動は制御装置の問題だ。現在みたいなVVVFインバータ制御が一般的になる前、つまり抵抗制御の時代には極端な話、コントに電気をくれてやったり切ったりする際に衝動が発生する。ゼロ速度からの起動、カムの進段、力行から惰性走行へ、惰性走行から電気ブレーキの立ち上げ、電制失効……ありとあらゆるシチュエーションで衝動が起こる。これらをすべて解消するのは無理にせよ、解消できるものは片っ端から解消していきたい。
電気子チョッパ制御であればこれらすべての衝動から開放されるが、AE形の製造当初はまだ発展途上の技術であり価格が高く、空港新線の建設や上野駅の改良などで多額の投資が必要だった京成電鉄には引き合わない話だっただろう。かといって直巻モータの抵抗制御ではあまりにも芸がない。なんといってもカーブの多い京成電鉄。105キロでクルージングできる区間は少ない。速度制限区間をエレガントに抜けてエレガントに加速するにはどうするべきか。
京成電鉄が選んだのは複巻モータの使用だった。細かい話はさておいて、複巻モータであれば分巻回路の電流を制御することで、力行から惰性走行、惰性走行から減速を「電流のオンオフ」ではなく「電流の制御」で操作できる。これで弱め界磁領域の時速45キロ以上での衝動は抑えられる。加速での衝動も弱め界磁を利用し、モータの電磁石が回転部分を押さえ込もうとする力を弱め「がっくん」という衝動を減らすことができた。モータのつなぎが375ボルト8M1C永久並列(東洋電機の制御器なので1C8Mと書くよりもエレガントというものだ)、制御段数12段としたのも複巻モータの過渡特性を利用し、衝動が起こる回数を最小限に押さえ込んだのではないかと推測する。よく練りこまれた、当時の京成電鉄の意気込みが伝わってくるデザインだ。
3400形はそのAE形の足回りを流用した通勤型電車。車体こそ通勤型となったが足回りはギア比5.25も含めてAE形のままだ。
AEのしがらみ
そう、AE形のままなのだ。永久並列定格電流415アンペア、140キロワットモータをギア比5.25でまわすセッティングのまま、加速力を2.5キロ/秒から3.3キロ/秒にアップしているのだ。AE形なら初動加速を絞って高速で勝負する設定だ。しかし、3400形では6M2Tとはいえそうはいかない。3400形は通勤型ゆえに応加重装置を設置している。したがって加速時に足りないパワーは何で補うのか。
電流だ。定格415アンペアではまかないきれない分は複巻モータゆえにきっちり電流から補填される。おそらく満車時の起動では500アンペアに達する勢いで電流を食うのではないかと思う。パンタ点の集電電流を超えるんじゃないかという数値だが、この数値になるのは起動から10秒くらいなので大丈夫なのだろう。
また、スカイライナー時代なら時速45キロ以下に落ちるのは駅停車時くらいなので問題とならなかったが、都営浅草線内で各駅停車にもなる3400形では回生ブレーキにも禍根を残している。なんせ永久並列ということは、回生ブレーキも並列段で終了するわけなので失効速度は並列最終段と同じ45キロ。雨の日の押上線普通などではとてもストレスがたまることだろう。
しかし、それでも3400形はすばらしい。ゼロアンペア制御による速度制御の滑らかさはVVVF制御のクルマとまったく遜色がない。運転面では不利な回生失効速度の高さも、低速での大きな衝動がないため実にエレガント。もちろん加速は弱め界磁起動で通勤車らしからぬしなやかさ。当時京成電鉄が「すばらしい電車を作ろう」とこめた意気込みを現在に至るまで楽しめる。40年のときを超えて伝わる「走りへの想い」。それが3400形の価値だ。
エアポート快特や本線特急に3400形がやってきたら、座席に深く腰掛け、40年前に製作者がこめた思いをかみ締めてほしい。これが3400形の価値だ。