- 「僕の頭から離れなかったのは、新幹線が何年も走り続けるときのことですよ。台車も新品のうちは理想の走りができる。だ行動を抑制できる。しかし、鉄は摩耗します。車輪もレールころ軸受けも……損耗する。そのときに、振動を御しきれるのか。そのことは、誰にもわからないんです。」
『新幹線EX』49号のインタビュー記事だけど、これにはちょっと意表を突かれました。このインタビューの内容はかいつまんで言うと新幹線電車になぜIS式の軸箱支持を採用したということなんですが、俺の中では性能評価とメインテナンス性で選ばれた、くらいにしか思っていませんでした。
たとえば当時試験された台車ひとつ、シュリーレン式のDT9001台車は、良好な特性を得たものの製造公差を各車両メーカーが維持できないリスクがあるという点で外された、くらいの認識で、そういった消去法の末にいちばんネガの少ないIS式台車DT9004が選ばれた、くらいに考えていたんですね。
でも、インタビューを読むとそういうことではないらしい。
IS式のキモは金属ばねで支持している軸箱と台車枠を板バネで接続し、上下方向の振動は金属ばねが担当し、左右方向の剛性を板バネが担当するという台車。一見ミンデン式と同じに見えるけどミンデンが板バネをボルトでがっつり止めているのに対して、IS式はゴムブッシュを介して結合している。
俺はそこに気づかなかった。
ゴムの利点はなんだ。金属ばねに比べて弾性力の自由度が高いことだろう。ミンデン台車の本質はなんだ。だ行動の抑制だ。
そう。200㎞/hオーバーという未知の領域でどのようなだ行動が起こるかわからない。200㎞/hのときはこのばね定数でよかったものが230㎞/h、270㎞/hとなったときにどう変わるかわからない。東海道新幹線の線路のコンディションだってどう転ぶかわからない。
その「わからない」に対して即応できるのが、IS式のゴムブッシュだったわけですよ。ゴムブッシュの硬度を変えて最適解を探る。まだ新幹線電車が「未知の技術」である以上、冗長性は必要なんですよ。ホントまったく気づかなかった。
これは、未来の人間が過去の事象に触れる際「正解を知ったうえで考察してしまった」がゆえにおこす落とし穴ですね。
たしかにたとえば乗り心地だけでシュリーレン台車を採用したとして、230㎞/hでだ行動が出ました。どうしましょうってなったとき、たとえばシュリーレン台車は軸ばねで前後動とねじりをまとめて対応するので、台車当たり金属ばね8本を全とっかえしなければならんのですよ。上下動と左右動が明確に分かれているIS式に比べて解析もたいへんでしょう。
なるほどなあ、って思いましたよ。
このほかにもDT200台車として完成した新幹線電車の台車は、読むほどに設計者の石澤さんの信念が込められているんだな、と思いました。
新幹線はホント面白いです。