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サマンサのおもちゃ箱

趣味の話ばかりになってきたので改題。模型やおもちゃや実車など、鉄道にかかわるそんな話をつらつらと。好きなジャンルは民鉄と新幹線ですが、最近は新幹線成分が多めですね

未来をデザインした、正しい資質の積み重ね

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未来をデザインした、正しい資質の積み重ね


 新交通システムは路面電車に変わる中量輸送機関として生まれた。地下鉄や普通鉄道を建設するほどでもないけれど、バスではもてあます、ある意味ニッチなところを狙ったシステムだ。
 しかし、利便性が高ければ利用客も増える。鉄道事業者としてはそれはそれでめでたいことではあるが、新交通システムにおいてはそう暢気に喜んではいられない。ゴムタイヤで走る新交通システムは許容過重が普通鉄道よりもはるかにシビアで、「まだ詰め込めるだろう」というレベルでも軸重オーバーで乗車できないというケースが発生する。結果、日暮里舎人ライナーのように「混雑が激しくなってロングシート化ができない(ロングシートだとつめこみが効きすぎて許容軸重を超えて乗ってしまうため)」という、普通鉄道ではまずありえない事態が発生する。つまり軽量化は新交通システムにおいて重要な案件なのだ。
 埼玉新都市交通2020系。11月4日から運用を開始した新型車両が。埼玉新都市交通は今年まで川崎重工製の2000系を導入しており、特に性能に問題がなければ、2000系を引き続き導入してもいいはずだ。
 車両メーカーを変えてまでモデルチェンジした理由はなんだろうか。もちろん三菱重工が「破格の」オファーをしたとか、川崎重工が新交通システムの製造から撤退するとか、そういった政治的事情がもしかしたらあるかもしれないが、そうでなければ2000系に潜在的な問題があったということになる。
 2000系のスペックを見ると、125kwのモータで1両あたり11t程度の車両を動かしている。TDK-6450-Aモータの定格回転数は1,610rpmと東洋電機らしい高回転型モータ。しかしこれをギアリング6.83で駆動する。直角カルダンだからといって高回転モータを加速よりのギアリングで回すというのは、どういうことか。
 埼玉新都市交通の架線電圧は600Vだ。そこからCIを通ってモータにかかる端子電圧は700V(げ、昇圧してるのか……)。ここから125kwの力を出すなら、180A近くの電流が必要になる。実際TDK-6450-Aの定格電流は133Aとなり、並列接続なので編成電流は800Aにもなる。ここに満車時の重量がかかると応過重装置が働いて1,000Aを超えることにもなる。そのピークはたくさん列車が走るラッシュ時に起こるわけだから、2000系という「電流食い」の電車が増えてくると都合が悪くなるわけだ。
 ちなみに開業時に投入された1010系はシリースモータによる電機子チョッパ制御なので、電圧降下しても通流率が変化してトップスピードが落ちる程度の弊害しかないが、2000系は並列接続のVVVFインバータ制御。電圧が下がった分は電流を増加させ出力を維持する。そのため2000系は1010系よりも「電気食い」という評価になってしまった。
 前置きが長くなった。2000系も1~2編成ならそれほど大きな問題にはならないが、7編成ともなると「電気食い」の問題がシビアになってくる。かといって今更メインテナンスが大変なシリースモータに戻るわけには行かない。
 ならばどうするか。
 その観点から真面目に検討したのが、2020系というわけだ。やっと本題に入れる。
 鉄道車両において供給電圧が低いというのは、いろいろと不利だ。かといってニューシャトルの電圧をたとえば三相1,150Vにするというわけにもいかない。であれば、車両が走行する際の負荷を減らすしかない。具体的に言うとモータの供給電流を減らす方策を考えるわけだ。もうお分かりだろう。
 軽量化だ。
 鉄道車両において、軽量化はすべてにおいてよい方向へ傾く。たとえば加速力。加速力はぶっちゃけ引張力から質量を引いた残りのようなものだ。引張力が増やせないなら質量を軽くすればいい。
 実は2000系は初期型の1010系よりも重い。これは車体寸法が大きくなったため仕方がないことでもあるが、重ければその分電気を食う。
 寸法をそのままに質量を下げるには、板厚か材質か、その両方かを再検討するしかない。そこで2020系ではアルミボディを採用し、車幅2,480mmのまま軽量化をはかっている。外吊扉とした理由はおそらく戸袋を作るのを嫌ってのことだろう。これによって薄板でも軽量化が可能となるし、ドア幅を1,400mmにできる強度的余裕が生まれた。
 足回りおよび性能面では2000系と変わらない。ギアリングも6.83と同じだ。メインテナンスを考えればいたずらにアセンブリパーツが増えるよりも、共通できるところは共通したほうがいい。特に今回はスピードアップなどはからまないのだから、同じ部品が使えるならそれにこしたことはないのだ。
 ただし、台車周りを軽量化した新製品T-smoverを投入。これによって1両あたり1t程度の軽量化を果たすことができた。結果として1010系の質量に戻っただけといってしまえばそれまでだが、車幅・車高が拡大し、さまざまな運転支援システムを搭載した上での同等質量であるからこれは立派な進歩だ。
 さて、軽量化によって消費電力が下がることは間違いないとして、旅客に何かメリットはあるだろうか。実際に乗ってみると40km/h以上の速度域ではたしかにその効果が認められる。エネルギというのは質量と速さの積なので、高架橋の継ぎ目を通過するときのドンつきは2000系に比べ小さい。
 とはいえ、その差は「だからなに?」という程度のものだ。列車の乗り心地を支配する要素の7割はインフラにある。普通鉄道のような平滑なレールではなく、凸凹のコンクリートを走る以上劇的な乗り心地改善はありえない。しかし「だからなに?」を積み重ねていかなければ決して高級な乗り心地には到達しないわけで、軽量化によって心もち乗り心地がよくなった、これはすばらしい改善なのだ。
 また、アルミボディになったおかげで若干ではあるが制振効果が期待できる。ステンレスに比べアルミは固有振動数が小さい。鋼体質量が同一であれば、ステンレスよりもアルミは振動が小さくなる。これは先ほどのドンつき以上に「だからなに?」レベルの改善ではあるが、振動・騒音を潰すというのはこういった制振・吸音・遮音技術で一つ一つ地道に潰していくことなのだ。

G-Fit

 それよりも旅客に素性の良さを訴えるアイテムとして効果的なのは新型座席のG-Fitだろう。人間工学で理想とされるトルソ角105度を愚直に実現し、座席幅460mmを維持しつつも編成で座席定員を3名増加させた。このデザインはほめすぎてあまることはない。
 バックレスト591mmという数字は、特急型の600~740mmには及ばないにせよ、そのホールド感はこれまでのロングシートの比ではない。バックレストが肩まであることで、ロングシートにありがちな「居眠りした旅客が隣の肩に寄りかかる」現象を抑えることができる。また、座面奥行きを449mmとりながらも、ひざの位置を約20度持ち上げているため、足を投げ出す姿勢がとりづらい。これも通勤型電車として正しいデザインだろう。
 くわえて、座面にも背面にも稼動するばねがない。ばねは固有の振動を発生する騒音源でもある。それを解消した点も評価したい。
 ところで、ロングシートでトルソ角105度を実現した場合、G-Fitのようにバックレストが591mmもあると、150mmほど座面が車内に張り出してしまう。通勤型電車においてそれは許しがたいことだ。そこで、ニューシャトルの六角形コンタになる。2000系の裾絞りではなく、バックレストの頂点から下向きに直線状に落とし込むことで、車内容積を損ねることなくトルソ角105度を実現している。あの六角形のコンタは、スタイリストのお遊びなのでは決してないのだ。
 ちなみに上方にもすぼまっている理由は、外吊扉のガイドレールと車側灯を限界内に収めるためだ。
 2020系の技術は三菱重工が提案する「新時代のAGT」のコンセプトに基づいている。パンフレットにはさまざまな技術がうたわれているが、突き詰めるところ「軽量化」だ。
 軽量化によって埼玉新都市交通では2000系で問題になった消費電力の軽減が可能となった。日暮里舎人ライナーでは軽量化で軸重制限が緩和され、乗車定員の増加が図られた。
 鉄道のフレキシビリティは軽量化である。このことを愚直にデザインした三菱重工の新交通システムはまさに、正しい資質を持った車両なのである。こういう電車こそ「未来の電車」というべきなのだ。

車端部の機器を小型化するなどして座席定員を編成で3名増加。座席を高級化するだけでなく定員を増加させたことは正しいデザインといえる。
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