名鉄3900系までのOR車と5000系以降のSR車。コンセプト面最大の違いは「軽量化」であろう。車両を軽くしてモータの持てる性能を最大限に発揮する。高回転モータを得意としていた東洋電機のモータを使うのであれば、これこそが最高のセッティングであると断言しても過言ではない。
SRのコンセプトを感じ取るなら、その元祖となるクルマに乗るべきだが、あいにく5000系はすでに廃車となっている。しかし、その機器を流用して作られた5300系はまだ少数が残存しているので、残っているうちに「SR車」を体験しておくべきだろう。5300系は5700系と運用が共通化しているので狙って乗ることは難しいが、引退してしまえば乗ることすらできないのだから、乗れる可能性がある今こそ時間をこのために浪費すべきだ。
5300系は国鉄が東海道本線豊橋~大垣間を「電車ダイヤ」にする際、117系電車を導入し名鉄にケンカを売った際に登場したクルマで、新造車両が5700系、5000・5200系からの機器流用車が5300系となった。苦しい予算の中で精一杯の対抗策ではあったが、そのおかげで今でも元祖SRの乗り味を体感できるのだから感謝しなくてはならない。
では、SRの乗り心地とは何か。
ひとつはTDK-823Aモータにある。高回転命の東洋電機謹製だけに定格回転数は2,000rpm。いっぱいまで回せば4,500rpmにも届くような高回転モータだ。これをギアリング4.875で回す。低回転の弱い部分はギアリングで補い、350アンペアでがんがんノッチアップしていくセッティングだ。聞いて驚け全界磁の定格速度は66.7キロ、弱界磁50%で105キロまで引っ張れる。名鉄6000系を俺がSRとあまり認めたくないのはここにある。6000系の定格速度は何キロだったか。通勤電車としてはとても優れた6000系ではあるがゆえに、敬意を表してSR車のカテゴリには入れたくないのが偽らざる俺の気持ちだ。
閑話休題。この数字はいうなれば国鉄485系に近いセッティングだが、ギアリングを思い出してほしい。485系はMT比1:1で3.5だが、5000系はオールMで4.875だ。この数字から見えるものは、5000系は低速から高速までモータがぎゅんぎゅん回っていることを意味する。これこそがSRの醍醐味といえるわけだ。
5300系のセッティングもこの点は変わっていない。したがって5000系SRのような胸のすくような加速と伸びやかな高速運転が楽しめる…といいたいところだが、そうコトは簡単ではないのが残念なところだ。
それは重量。5000系はモータのパワーを限りなく走りというリソースに突っ込むために車重33.5トン(言っておくがM車だからね)という驚異的な軽量化を行っている。しかし5300系は冷房など余計な(そう、「余計な!」)設備を積んでいるため36トンと2.5トンも重い。5000系登場時の鉄道誌のインタビューに対して「軽量化は今一歩というところ」とこたえた志の高さはどこへ行ったと嘆きたくもなる。
とはいえ、冷房を載せて36トンはかなり努力をした数字だ。普通鋼でこの数字を出した名鉄はさすがといわざるを得ない。イマドキのクルマは応荷重装置のひとつもついているので、限流値350アンペアにこだわらずノッチアップをすれば当時の走りも楽しめるというもの。実際、スペックシートだけを見れば5000系と大きく変わるところはないので、おそらく現流値をいじっているものと思われる。
SR車の走りはゼロ速度からの加速より、むしろ全界磁を抜けてからの加速が肝だ。ゼロ速度~100キロの平均加速力1.7キロ/秒は数字以上の心地よさを楽しませてくれる。全界磁定格速度が66.7キロにターゲットされているのは、名古屋本線の速度制限区間で60~70キロというのが多く、ここからの再加速をすばやく行うためで、実際に70キロからの加速力は1.5キロ/秒を確保している。設計当初電制が75キロで落ちる予定だったのもおそらく、この速度制限に合わせてスポッチング(当時は単位スイッチ式)するためだったんではなかろうか。現在はコントがABFM-108-15MRHに置き換わったため真偽の確かめようはないが、SR車の肝ともいえる30キロ付近まで安定してかかる電気ブレーキは、界磁電流を別途流して回生ブレーキをかける界磁添加励磁装置のおかげで、HSC-Rとは言えど安定したブレーキとなっている。5000系のときのようなパラ最終から一旦WFを経由してシリースに落とすといった電制の動きを楽しむことはできないが、可能な範囲でショックレスを追求した回生ブレーキの妙味は今でも楽しむことができる。
なお、走行性能においては5300系も5700系もさほど変わるところはない。しかしあえて言わせてもらえば、5700系はSRといいたくない部分がある。5300系にあって5700系にないものとはなんだろうか。
それは、車重に対する哲学だ。
名鉄はSR車を作る際、軽量化とあわせて車重の均等化にとても気を使っていた。したがって5000系は全車両が33.5トン前後、展望席が含まれるパノラマカーですら先頭車と中間車の重量差を2トン程度に押さえ込んでいる。完全均等にならなくともその差をできるだけ小さくすることは、高速運転時の走行安定性に大きく寄与するという哲学を持っているからだ。これはSR車においてとても大事な部分だと俺は考える。
5300系はこの思想をしっかりと受け継ぎ、4両編成全車両が自重35.3トンから36トンの間に収まっている。5700系はMT編成なのでTcが27.3トンでMが34.4トン。この差はいかんともしがたい(まさかTにデッドウェイトを積むわけにもいくまい)。
これが個人的に「純正SRの棹尾は5300系」と定義するゆえんだ。
SR車の中でも名車である7000系は静態保存されている。そしてパッケージ制御器もオールMであるがゆえに奇跡的に残された(もし7000系がMT編成で、先頭クだったら、先頭車だけ残されてコントは鉄くずだっただろうなあ…)。しかし、その胸のすくような走りを体験することはもうかなわない。
5300系はそんな「純正SR」の走りを楽しめる最後のチャンスだ。機器はいろいろ変わっているが、その本質である伸びやかな加速とキビキビとしたブレーキング、TDK-823Aモータの甲高い響きは健在だ。
まだ生きているうちに、乗って感じて刻み込んでおきたい。